刑事訴訟法の定義集

刑事訴訟法の法律用語の定義集です。
基本書などを参照しながら簡潔にまとめていこうと思います。



刑事訴訟法の定義集
用語定義(その他制度趣旨)詳解
刑事訴訟法の目的(1)真実の発見(実体的真実主義)と(2)適正手続の保障である。1条参照。真実発見と適正手続の保障とが対立する場合、後者が優先することが多い。
デュー・プロセス適正手続の保障(due process of law)のこと憲法31条参照。
検察官  
弁護人  
被告人  
被疑者  
被害者現行法上、手続の当事者としての地位は与えられておらず、単なる証拠方法の一つにすぎなかった。2000年5月に、「刑事訴訟法及び検察審査会法の一部を改正する法律」と「犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」が成立。被害者の刑事手続における法的地位の改善が図られた。
外国人外国人であることが刑事手続上問題となる点は(1)言語の問題(2)在留期限の問題とがある。175条・177条・223条参照
捜査の端緒捜査のきっかけとなる出来事告訴、自首などがあげられる。
任意捜査と強制捜査  
任意捜査の原則  
行政警察と司法警察行政警察は犯罪の予防が目的。司法警察は犯罪発生後の警察活動のこと理論的には前者と後者の権限を行使する機関が別であっても問題なし。
職務質問  
自動車検問 職務質問の要件が存在しているかどうか未定の段階で、一律に自動車を停止させるので、任意捜査の方法によらなければならない。
強制処分法定主義捜査の手段のうち、人権侵害のおそれが特に大きいものは法律の根拠なしに行えないとする原則強制処分の定義をめぐっては学説が対立している。捜査の科学的進歩などから、従来の物理力を中核とする強制処分の枠組みではとらえきれない捜査方法が登場したことから、プライバシーなどの人権侵害のおそれのある捜査方法も強制処分に属すると解されるようになった。
逮捕・勾留被疑者・被告人の身柄の確保を目的とする強制処分。被疑者等の逃亡や罪証隠滅の防止が目的。取調べは逮捕・勾留の目的になっていない点に注意。
令状主義逮捕や捜索差押えなど、人権侵害のおそれのある捜査機関の処分につき、裁判官の令状を必要とした憲法上の原則。令状審査手続を通じて捜査機関の行為に裁判官が関与する。また、被処分者に対し呈示を要求することにより、被処分者によるチェックが入ることになる。これによって処分の適正・人権保障が図られる。
現行犯逮捕現行犯人(現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった者、212条1項)はだれでも(私人でも可能。214条)逮捕状なしに逮捕することができる(憲法33条、213条)。令状逮捕の憲法上の例外。犯罪の現在性、緊急性から逮捕状が不要。
準現行犯212条第2項の各号の一つに該当し、かつ罪を行い終わってから間もないと明らかに認められるため、現行犯とみなされるもの。@犯人として追呼Aしょう物又は凶器等の所持B身体又は被服に犯罪の顕著な証跡C誰何されて逃走、のいずれか。
通常逮捕199条2項。「逮捕の必要(199条2項)」
緊急逮捕 逮捕当時に令状が存在しないので、憲法33条違反とする説もある。
事件単位の原則逮捕・勾留は被疑事実単位でのみ及ぶ。人単位説はとらない。余罪取調べの適否につき、取調べは逮捕・勾留の目的でないことから事件単位の原則は及ばないが、「令状主義の潜脱にあたるか」という観点から事実上考慮される?
再逮捕・勾留の可否逮捕・勾留には時間制限があることから、原則として否定される。  
一事件一逮捕一勾留の原則逮捕・勾留は一事件についておこなわれるということ。 
別件逮捕・勾留本件について取調べる目的で、まず逮捕要件を具備した微細な別件について逮捕・勾留をおこなうことを別件逮捕・勾留という。別件逮捕の違法性をめぐって、本件基準説(通説)と別件基準説の対立がある。実際は、別件逮捕中になされた取調べの違法性や、そこで得られた証拠の排除が争点になる。
余罪取調べ身柄が拘束されている被疑者(被告人)に対し、身柄拘束の根拠となっている被疑事実以外の嫌疑につき取調べること取調べが任意に行われる限り認められる、と解してよいが(そもそも事件単位の原則をを身柄拘束中の取調べにも及ぼすのは、逮捕・勾留の目的に取調べを含めていない法に照らして矛盾?)、令状主義の潜脱、という観点から制約される。
科学捜査  
捜索差押え  
現行犯逮捕に伴う捜索差押え  
接見交通権被告人が弁護人から自由に交流・援助を受けられる権利。 
接見指定検察官が捜査の必要上、被疑者と弁護人とが接見できる日時を指定すること。 
準抗告429条・430条。逮捕に準抗告が認められるかどうかが議論になる。判例は否定。
起訴独占主義国家訴追主義。私人訴追主義と対比。 
起訴便宜主義起訴するかどうかや、どの事件をどの部分まで起訴するかが検察官にゆだねられていることこの原則に関して、公訴権の濫用、検察審査会・付審判手続、一部起訴の可否等が問題になる。
訴訟条件判決をする条件になるもの。管轄権、公訴時効、親告罪の告訴など。
公訴権の濫用 判例でほ、起訴自体が公務員の職務犯罪を構成する場合など、きわめて例外的な場合にしか認められない。
検察審査会検察官が不起訴にした事件につき、その不起訴の適否を審査する機関。 
付審判制度 公務員による犯罪に限定。
訴因制度検察官に訴因を設定する権限を与える。@被告人の防御の便宜だけでなく、A裁判所の審判範囲を確定(限定)する機能を持つ。戦後の刑訴改正により導入。英米法のCount制度に由来。
訴因の特定訴因はできるだけ特定されなければならない。訴因に詳細な記述を求めることは、捜査の長期化または予断排除の原則に抵触のおそれがある。
訴因と公訴事実訴因とは、犯罪事実の検察官の主張。公訴事実とは、訴因の元となった生の犯罪事実のこと。審判対象論につきどの立場に立つかで、定義が異なってくる。
公訴事実の同一性訴因変更の(場所的)限界を画する概念。判例は基本的事実同一説と非両立説の2つの基準を使用している。その判定基準としては、基本事実同一説(非両立説)、訴因基準説、刑罰関心同一説、総合説などがある。
訴因変更の要否訴因によって特定された事実と審理の結果得られた事実との食い違いがあっても、被告人の防御の利益を損なわない場合は、裁判官は訴因変更をせずにその事実を認定できるとすることその限界をめぐり抽象的防御説(訴因から一般的に判断)と具体的防御説(具体的な訴訟経過から判断)とが対立。具体的防御説については、「被告人の防御が尽くされているので訴因変更は不要」という判断につながるため、かえって被告人の防御の利益を損なうという指摘がある。
縮小認定訴因によって特定された事実(検察官の心証)と審理の結果形成された裁判官の心証とが大小関係で重なり合う場合になされる。訴因変更は不要。結果的加重犯と基本犯、既遂と未遂など。
訴因変更の可否検察官が訴因変更をのぞんだ場合、それが認められるか否かの問題。訴因変更の”場所的限界”ともいわれる。「公訴事実の同一性」の有無が基準。
訴因変更の時期的限界公訴事実の同一性が認められる場合でも、具体的な訴訟経過から訴因変更が信義則上許されない場合のこと。検察官による訴訟の引き延ばし等を防ぐため、信義則上主張される。
訴因変更命令裁判所が訴因の変更を検察官に命ずること。検察官が訴因を設定する原則の例外。職権証拠調べ(298条2項)と共に、戦前の職権主義の名残ともいわれる。当事者主義に抵触しないよう、非常に限定された運用がなされている(通常は訴因変更の勧告にとどまる。)。
公判手続公訴手続から裁判が確定し被告事件が裁判所の手元を離れるまでの手続全部をいう。狭義では、公判期日に公判廷で行われる(282条1項)。第一審、控訴審、上告審の3段階に分けられる。
公判期日裁判所、当事者、その他訴訟関係人が公判廷に集まって訴訟行為をするために定められた時のこと。 
公判廷公判を開く法廷のこと裁判所またはその支部で開かれる(裁判所法69条1項)。なお、裁69条2項、最判昭和23年7月29日も参照。
被告人出頭の原則原則として被告人の出頭がなければ開廷することはできない(286条)裁判を受ける権利(憲法32条)、裁判公開の原則の一つの帰結。なお、「開廷することはできない」とは実体審理ができないという意味で、すべての訴訟行為ができなくなる訳ではない。
被告人出頭の原則の例外被告人が正当の理由なく出頭を拒否した場合等(286条の2)や裁判長の許可なく退廷した場合や秩序維持のため退廷を命令された場合(341条)など。その他、283条、28条、284条、285条1項2項、314条1項、304条の2、規則187条の2、3、4なども参照。
公判廷における被告人の身柄拘束の禁止287条1項本文。 
被告人の在廷義務裁判長の許可が必要(288条1項)。裁判長は被告人を在廷させるために相当の処分をすることができる(288条2項)。
必要的弁護事件  
訴訟指揮権  
証拠開示  
アレインメント制度  
公判中心主義 裁判公開の原則(憲法82条1項)とも関係か?捜査の糾問化や起訴便宜主義の発達が、公判中心主義の後退を招くと危惧されている。
口頭主義 書面審理が否定
証拠能力  
証明力  
自由心証主義 法定証拠主義に対する概念。
自然的関連性最小限度の証明力を有するとされる証拠のこと科学的証拠の証拠能力をめぐって、この自然的関連性の有無が問題になる。
法的関連性予断や誤解が生じやすいという理由で証拠能力を政策的に否定される証拠のことを「法的関連性を欠く証拠」という。 
証拠禁止捜査方法の不当性を理由とした証拠能力否定事由のこと。違法収集証拠の排除法則による証拠能力の否定がこれにあたる。
自白法則  
任意性自白が任意のものだということ 
信用性  
補強証拠  
共犯者の自白  
違法収集証拠排除の原則  
毒樹の果実  
伝聞証拠の禁止(伝聞法則)公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他のものの供述を内容とする供述を証拠とすることを禁止すること(320条1項)公判廷外の供述を含む証拠が伝聞証拠に当たるか否かは、証明しようとする事項(要衝事実または立証事項)との関係で相対的に定まる。
伝聞例外伝聞証拠ではあるが、例外的に証拠能力を持つ場合。非伝聞(言葉の非供述用法や現在の心理状態の供述)との違いに注意。
裁判官面前調書裁面調書と略される。 
検察官面前調書検面調書と略される。 
弾劾証拠328条参照。 
択一的認定甲事実か乙事実かどちらかであることは確実に認定できるが、どちらの事実なのかは確定できない場合、「甲事実または乙事実」が罪となるべき事実であると認定すること。「疑わしきは罰せずの原則(利益原則)」や罪刑法定主義に反しないかが問題になる。
一事不再理効その根拠としては、裁判効力説と手続効力説とが対立する。論者により理論構成が異なる。
一事不再理効の拡張特に被告人に有利な方向で、一事不再理効の範囲を拡張する考えが存在する。 
略式手続  
控訴審の構造(1)覆審(前訴の審判をご破算にして新たに審理をやり直すもの)(2)続審(前審における判決前の審理手続を引き継ぎ、さらに新たな証拠資料を補充して審理を行うもの)(3)事後審(事件そのものではなく、原判決の当否を審査するもの)とがある。現行法は(3)が判例・通説。被告人への負担の軽減、第一審の形骸化の防止などが理由としてあげられる。
上告審の権限と権能  
再審  
利益再審  
証拠の明白性  
証拠の新規性  

<参考文献>
田口守一『刑事訴訟法(第二版)』(弘文堂、2000)
裁判所書記官研修所監修『刑事訴訟法講義案−再訂版』(司法協会、1998)
松尾浩也・井上正人『刑事訴訟法の争点(第3版)』(有斐閣、2002)






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