刑法各論の定義・論点集

刑法各論の法律用語の定義集です。
長らく放置していましたが、ぼちぼち埋めていきます。


刑法各論の定義集
用語定義(その他制度趣旨)詳解
生物学上の人間のこと。殺人罪などの行為の客体となる。
人の始期全部露出説(民法の通説)と一部露出説との対立がある。胎児の一部でも母体から露出していれば、それに対する攻撃が可能であるから、一部露出説が刑法では通説。
人の終期心停止説(三徴候説→心臓の不可逆的停止、脈拍の停止、瞳孔の拡散)と脳死説との対立がある。 脳死移植法上の例外をのぞいては、三徴候説が通説。
殺人罪199条。死刑又は無期もしくは三年以下の懲役。
尊属殺人罪親など民法上の尊属に対する殺人罪の刑の加重類型。平成七年改正により削除(200条)。なお、それ以前の最高裁判例によって違憲とされていた。
嘱託殺人罪  
同意殺人罪  
自殺自らの手で自身の生命を絶つこと。適法か違法かをめぐって、問題になるが、自己決定権の尊重や、自身の人生に失望して自ら命を絶つことを法によって禁止することは酷である、などの理由から適法と解するべき。
自殺関与罪 自殺そのものを違法と解するかどうかで、その法的性質が問題になる。
過失致死罪  
危険運転致死罪  
胎児の保護  
堕胎罪  
堕胎致死罪  
遺棄罪  
単純遺棄罪  
保護責任者遺棄罪  
遺棄217条と218条 
脅迫罪生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した場合(222条1項)、あるいは親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した場合(222条2項)に成立する犯罪2年以下の懲役又は30万円以下の罰金。
脅迫罪の罪質(a)私生活の平穏に対する侵害犯又は危険犯と解する見解と、(b)意思活動の自由に対する危険犯と解する見解とが対立する。(a)説では漠然としており処罰範囲が必要以上に広がる懸念もあるが、(b)説では強要未遂罪と異なる独自の法益を示せていないという指摘もある。山口説では、安全感を害することによる意思活動の自由の危殆化と捉える。
脅迫人を畏怖させるに足りる害悪の告知脅迫罪は危険犯であるから、実際に相手方が畏怖したことまでは必要がない(大判明治43・11・15判録16輯1937頁)
加害の対象222条1項・2項で列挙されている法益あるいは人物以外にも加害の対象になりうるか問題になる。罪刑法定主義から、限定列挙と解するのが妥当。しかし、例えば貞操は「自由」に含まれると解される。また、「親族」については法的に親族であることが必要。法人が脅迫罪の対象になるかについては後述。
法人に対する脅迫罪222条1項・2項の「人」に法人が含まれるかどうか問題になる。否定するのが裁判例及び通説。山口説は必要説。
加害の内容将来の害悪であって、告知者が直接・間接にその惹起を支配・左右しうるものとして告知されなければならない(最判昭和27・7・25刑集6巻7号941頁)脅迫の際明示あるいは黙示された将来の加害行為が犯罪を構成する必要があるか、少なくとも違法でなければならないか問題になるが、判例(大判大正3・12・1刑録20輯2303頁)及び通説はこれを不要とする。
加害告知の方法  
強要罪生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対して害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、(223条1項)、あるいは親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対して害を加える旨を告知して、脅迫して(223条2項)、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した場合3年以下の懲役。未遂も処罰される(223条3項)。意思決定・意思活動の自由が保護法益として挙げられる(山口説では後者のみを保護法益に挙げる)。
強要罪における暴行暴行が被強要者に加えられることが必要か(第三者や物に対するものもこれにふくめるのか)、反抗を抑圧する程度のものはこれに含まれないか、が問題になる。 
法人に対する強要罪 通説は否定する。山口説は脅迫罪と強要罪との保護法益の差異を指摘し(72P)それに着目した上で、法人に対する強要罪の肯定する余地を認める。
人質強要罪 人質による強要行為等の処罰に関する法律に定められた強要罪の拡張・加重類型。
逮捕監禁罪不法に人を逮捕し、又は監禁した場合に成立する犯罪(220条)。3月以上五年以下の懲役。逮捕に引き続いて監禁がおこなわれたときは包括して一罪が成立する。また、継続犯であり、場所的移動の自由が侵害されている間逮捕監禁罪が成立するので、公訴時効の起算点は、移動の自由が回復された時点となる。
逮捕監禁罪の保護法益一定の場所から移動する自由。その内実について、現実の行動の自由(現実に移動しようと思ったときに、移動できる自由)と解するか、それとも可能的な自由(移動しようと思えば移動できる自由)で足りるか問題になる。保護法益をどう解するかによって、行為の客体の範囲が変化する。可能的自由説が判例・通説とされる。山口説では、保護法益を場所的移動の自由だけでなくそれを処分する自由も保護法益の内容をなすと解している。
逮捕人に暴行などの直接的な強制作用を加えて場所的移動の自由を奪うこと。 逮捕といいうるためには、場所的移動の自由を拘束したと認められる程度の時間その拘束が継続する必要がある(大判昭和7・2・29刑集11巻141頁)
監禁一定の場所からの脱出を困難にして、移動の自由を奪うこと。部屋に閉じ込める例が典型だが、それに限定されない(疾走するバイクの荷台に乗車させた例に監禁罪を肯定、最決昭和38・4・18刑集17巻3号248頁)
監禁の認識の有無監禁罪の成立については、被監禁者に監禁の認識が存在することが必要か問題になる。被監禁者が睡眠中であったときなどに問題になる。可能的自由説はこれは不要とする。
欺モウ・偽計による監禁 監禁されること自体には被監禁者が同意しており、ただその同意に瑕疵があるにすぎないケースなので問題になる。刑法総論の被害者の同意や法益関係的錯誤の項目も参照。
逮捕監禁致死傷罪逮捕・監禁罪を犯し、よって人を死傷させた場合に成立する。逮捕・監禁罪の結果的加重犯。傷害の罪と比較して、重い刑により処断される。死傷の結果は、逮捕・監禁という事実から、あるいは逮捕・監禁の手段から生じることが必要とされる。これ以外の逮捕・監禁の機会になされた暴行により生じた死傷の結果については、傷害罪又は傷害致死罪と逮捕・監禁罪との併合罪となる。
略取誘拐罪人を略取又は誘拐することにより成立する犯罪。拐取罪ともいう。
略取・誘拐(拐取)人をその生活環境から不法に離脱させ、自己又は第三者の実力的支配下に移すこと「略取」「誘拐」 
拐取罪の保護法益  
強制わいせつ罪保護法益につき、被害者の性的自由という個人的法益と捉えるか、健全な性風俗という社会的法益と捉えるか、で対立がある。
性的意図行為者自身の性欲を刺激興奮させまたは満足させるという意図。強制わいせつ罪の成立に必要とされる主観的超過要素。最高裁昭和45年1月29日第1小法廷判決刑集24巻1号1頁参照。 
名誉毀損罪
侮辱罪
秘密漏示罪
住居侵入罪
住居侵入罪の保護法益
財産罪財産権を侵害する犯罪類型一般のこと。奪取罪、交付罪、損壊罪など、さまざまな類型がある。
財産罪の客体財物と財産上の利益財物の定義については、有体性説と管理可能性説とが対立する。
(刑法上の)占有物に対する事実上の支配。占有の事実(客観的要件)と占有の意思(主観的要件)によって判断される 民法上の占有よりも事実的なものであり、代理占有や相続による占有の承継も認められない。
占有の帰属物等の保管について複数の人間が関わっている場合、誰に占有が帰属しているか問題になる。対等な場合、上下・主従関係がある場合、領域的な支配関係がある場合などそれぞれについて問題になる。
封緘物の占有封緘物(容器中に物を収め、封を施した物)の占有の所在をめぐる問題封緘物の保管を委託したケースでは封緘物自体の占有は受託者にあるが、内容物についての占有は委託者にあると解するのが判例である。
死者の占有  
個別財産に対する罪/td> ←→全体財産に対する罪
領得罪 ←→毀棄罪
財産罪の保護法益本権説と所持説とが対立する。 
窃盗罪 未遂も処罰される(243条)。
窃盗罪の保護法益所有権その他の本権を保護法益とする本権説と占有それ自体を保護法益とする占有説とが対立する。本権説をベースに「平穏な占有」や「合理的理由のある占有」は保護に値するなど、中間的な見解もある。権利者による自力救済をどの限度まで許容するか、また財産犯の成否を民事上の法律関係に従属させるか否かが問題になる。
不動産侵奪罪 235条の2。
窃盗罪の客体「物」、つまり財物に限定される。いわゆる二項犯罪は、窃盗罪には存在しない。
窃取他人が占有する財物を、占有者の意思に反して自己又は第三者の占有に移転させる行為をいう。占有を取得したときに既遂になる。
不法領得の意思(窃盗罪)権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用、処分する意思(判例)排除意思と利用意思で構成される(通説では)。毀棄罪と窃盗罪、不可罰である一時使用と可罰的な窃盗とを画するのに必要な概念とされる。その内容や要否については諸説ある。
一時使用一時使用や財物を返還する意思があったといえる場合の窃盗罪の成否が問題になる。
情報窃盗
営業秘密侵奪罪
親族間の犯罪に関する特例
強盗罪暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した場合(236条1項)あるいは財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた場合(236条2項)に成立する犯罪。 5年以上の有期懲役。財物が移転するのが強盗取財罪(1項強盗罪)、財産上の利益が移転するのが強盗利得罪(2項強盗罪)。
1項強盗罪の客体物。財物。なお、電気は有体物とみなされる(245条)。不動産が236条1項の強盗罪の客体に含まれるか問題になる。否定説が多数説。この場合、236条2項の成立の余地を認める。
強盗罪の手段としての暴行・脅迫被害者の反抗を抑圧するに足りる程度のものであることが必要(判例・通説)。反抗を抑圧されたかどうかの基準は被害者の主観ではなく社会通念上客観的に決せられると解釈されている(最判昭和24・2・8刑集3巻2号75頁)。
暴行・脅迫後の領得意思すでに反抗が抑圧された後に財物奪取の意思が芽生え、反抗抑圧状態を利用して財物を奪取した場合に強盗罪の成立を認めてよいか問題になる。 判例(最判昭和24・12・24刑集3巻12号2114頁等)は不要と解するが、準強姦罪(178条)に相当するような規定は強盗罪には存在しない ことが、不要説をとらない立場から批判される。財物奪取に向けた新たな暴行・脅迫が必要と解する説が妥当。なお、新たな暴行・脅迫は通常の場合に比してそれ自体は程度の低いもので足りると考えられる。
財産上の利益の移転強盗利得罪(2項強盗罪)の成立要件のひとつ。被害者の処分行為(債務免除の意思表示等)が必要かどうか問題になる。判例はかつて、利益移転の外形的事実の発生が必要という認識から処分行為が必要と考えていたが(大判明示43・6・17刑録16輯1210頁)、のちに不要説に変更した(大判昭和6・5・8刑集10巻205頁・・暴行により自動車の乗車賃の支払を逃れた事案、最判昭和32・9・13刑集11巻9号2253頁・・債権者を殺害して債務の返済を免れようとした事案)。なお、処分行為不要説であっても、処罰範囲の拡張を防ぐために財産上の利益の移転は現実的かつ具体的に認定されなければならない。
1項詐欺罪と2項強盗罪の競合当初から無銭飲食の意思で飲食し、その後、暴行・脅迫を用いて代金の支払を免ぬがれた場合に成立する犯罪が問題になる。このケースでは、1項詐欺罪と2項強盗罪が成立するが、両罪の包括一罪として重い後者の刑で処断すべきとするのが最高裁判例(最決昭和61・11・18刑集40巻7号523頁)
事後強盗罪窃盗犯人が、財物を得てこれを取り返されることを防ぐ目的、逮捕を免れる目的、又は罪跡を隠滅する目的で、暴行又は脅迫をした場合に成立する。238条。5年以上の有期懲役。暴行・脅迫の程度は強盗罪におけるそれと同程度のものが必要であり、その相手方は被害者以外の第三者や警察官に対するものでもよい。また、窃盗の犯行現場又は窃盗の機会の継続中におこなわれることが必要である(最決平成14・2・14刑集56巻2号86頁)。
事後強盗罪の主体「窃盗」。窃盗罪の犯人のこと。
事後強盗罪の未遂
強盗致死罪
強盗殺人罪
昏酔強盗罪
強盗致死罪
強盗殺人罪
詐欺罪人を欺いて財物を交付させた場合(246条1項)及び人を欺いて、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた場合(同条2項)に成立する。10年以下の懲役。移転罪。交付罪。詐欺(欺もう)行為→錯誤→処分行為(交付行為)→利得(物・利益の移転)という特別な因果経過をたどることが必要である。1項の場合は1項詐欺罪又は詐欺取財罪、2項の場合は2項詐欺罪又は詐欺利得罪という。個別財産の罪と解するのが通説。
国家的法益と詐欺罪
三角詐欺
キセル乗車
三角詐欺
訴訟詐欺
不法原因給付と詐欺
電子計算機使用詐欺罪人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた場合に成立する(246条の2)。10年以下の懲役。昭和62年新設。詐欺罪の補充規定で、法条競合の関係に立つ。
不良貸付
準詐欺罪未成年者の知慮浅薄又は人の心神耗弱に乗じて、その財物を交付させ、又は財産上不法の利益を得、若しくは他人にこれを得させた場合に成立する(248条)。10年以下の懲役。詐欺罪の拡張類型
恐喝罪人を恐喝して財物を交付させた場合及び人を恐喝して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた場合に成立する(249条)。10年以下の懲役。未遂も罰する(250条)。」財物(1項)および財産上の利益(2項)が客体となる。前者は恐喝取財罪、後者を恐喝利得罪という。財物には動産だけでなく不動産も含まれる。
恐喝暴行又は脅迫により被害者を畏怖させること 脅迫の害悪の内容や、害悪の対象となる人物の範囲は、脅迫罪と同様のものでなくともよい。
処分行為(恐喝罪)畏怖により生じた瑕疵ある意思に基づき、物・財産上の利益が交付されること。交付行為ともいう。交付により物・利益が移転されるので交付罪とよばれる。占有者の意思に反する移転である盗取罪とは異なる。
恐喝未遂恐喝行為に着手したが結果が不発生、あるいは結果は発生したが恐喝罪が予定している因果経過以外の経路であったこと。250条。恐喝が行われたが、被恐喝者が畏怖しない場合、あるいは一旦畏怖しても、別の理由から物・財産上の利益を交付した場合などがある。
恐喝罪と権利行使権利の範囲内ならば恐喝を暴行・脅迫を手段として用いても恐喝罪を成立させるべきかどうか問題になる。恐喝罪を全体財産に対する罪ととらえるか、個別財産に対する罪と考えるかで結論が異なる。前者の見解の場合、恐喝があったとしても権利の範囲内ならば恐喝罪を否定する見解になりやすい。後者の見解の場合、恐喝罪の成立を認めた上で、手段の必要かつ相当なものであれば違法性を阻却する、という見解になる傾向がある。
横領罪
委託物横領罪
占有離脱物横領罪
業務上横領罪
横領罪における占有法律上の占有も含まれる点に特徴。
二重譲渡
背任罪
背任罪の保護法益
他人の事務
二重抵当
器物損壊罪
損壊行為「損壊」とは、物理的な損壊に限定されるかどうか問題になる。
盗品等の罪
盗品等の罪の保護法益追求権説と違法状態維持説とが対立する。
騒乱罪多衆で集合して暴行又は脅迫した場合に成立する犯罪(106条)。首謀者(1号、主動者となり多衆をしてその合同力により暴行・脅迫をなさしめる者)、他人を指揮した者(2号、)又は他人に率先して勢いを助けた者、付和随行した者(3号)が処罰の対象となる。それぞれ、1年以上10年以下の懲役又は禁錮、6月以上7年以下の懲役又は禁錮、10万円以下の罰金に処せられる。
騒乱罪の保護法益公共の静謐又は平穏と解する見解と不特定・多数人の生命、身体、財産と解する見解が対立する。判例は前者の見解をとる(最判28・5・21刑集7巻5号1053頁、最判昭和35・12・8刑集14巻13号1818頁)が、 特定少数の者に対する集団的な暴行行為や警察などに対する暴行行為なども認められやすくなるという疑問が後者の見解からは指摘されている。
多衆一地方における公共の平和、静謐を害するに足る暴行・脅迫をなすに適当な多人数 大判大正2・10・3刑録19輯910頁、最判昭和35・12・8刑集14巻13号1818頁
暴行・脅迫騒乱罪の成立要件としての暴行・脅迫は広義のものと解されている。暴行には、者に対する有形力の行使を含まれる。また脅迫については、告知される害悪の内容は問わない。また、騒乱罪を公共危険罪と解する立場からは、不特定・多数人の生命、身体、財産に危険を及ぼすに足りる程度の暴行・脅迫が必要とされる。
共同意思(a)多衆の合同力を恃んで自ら暴行・脅迫をなす意思ないしは多衆をしてこれをなさしめる意思又は(b)かかる暴行・脅迫に同意を表し、その合同力に加わる意思暴行・脅迫が集団そのものにより行われたものとするために必要な要件であるとともに、集団による暴行・脅迫を集団を構成する個人に帰属するための要件である。
多衆不解散罪暴行又は脅迫をするため多衆が集合した場合において、権限のある公務員から解散の命令を3回以上受けたにもかかわらず、なお解散しなかった場合に成立する犯罪(107条) 解散命令が3回出され、その後解散のために必要な時間を経過した時点で多衆不解散罪が成立するとされる。
解散命令多衆不解散罪の成立要件の一つ。警察官職務執行法5条の、行われようとする犯罪の制止権限にその根拠が求められる。
放火罪
放火罪の保護法益
現住性
往来危険罪
電車転覆罪
通貨偽造罪
文書偽造罪
公務執行妨害罪
偽証罪
証拠隠滅罪
虚偽告訴罪
公務員職権濫用罪公務員がその職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した場合に成立する。二年以下の懲役又は禁錮。
特別公務員職権濫用罪  
特別公務員暴行陵虐罪  
特別公務員職権濫用等致死傷罪  
賄賂罪公務員が職務に関して不正な利得を得ることによって、職務の公正とこれに対する社会一般の信頼を害する行為を罰する犯罪類型。収賄罪(197条1項前段)、受託収賄罪(197条1項後段)、事前収賄罪(197条2項)、第三者供賄罪(197条の2)、加重収賄罪(197条の3第1項・2項)、事後収賄罪(197条の3第3項)、あっせん収賄罪(197条の4)、とさまざまな類型が規定されている。
賄賂罪の保護法益(1)信頼保護説(保護法益は「公務員の職務の公正」と「これに対する社会一般の信頼」)(2)不可買収性説(保護法益は「職務の不可買収性」)(3)純粋性説(保護法益は職務の公正)が対立する。 
職務公務員がその地位に伴い公務として取り扱うべき一切の執務(最判昭28・10・27刑集7巻10号1971頁)違法な行為や不作為も職務になりうる。
職務行為の範囲公務員が具体的に担当している事務でなくとも、その一般的職務権限に属するものであれば足りる(一般的職務権限説)。また、公務員の本来の職務行為のみならず、職務と密接に関連する行為も職務行為の範囲に含まれると解されている。 
転職後の賄賂授受公務員が、異なる職務の公務員に転じた後に賄賂を授受した場合の賄賂罪の成否が問題になる。かつて判例は、転職前と転職後で一般的職務権限が同じの場合のみに賄賂罪の成立を認めていたが、現在では公務員である以上は収賄罪が成立し、賄賂に関する職務を現に担当することは収賄罪の要件ではないとした。また、判例を批判し、一般的職務権限が異なるケースについては事後収賄罪のみにとどめる見解も有力。
賄賂公務員の職務行為の対価として授受等される不正な利益。一定の職務に対する対価であれば足り、個別具体的な職務行為との間の対価関係までは不要である(最判昭和33・9・30刑集12巻13号3180頁)。
賄賂の目的物財物に限らず、また有形・無形を問わず、人の需要・欲望を満たすに足りる一切の利益を含む(大判大正14・4・9刑集四冠219頁)。金融の利益、債務の弁済、接待供応、ゴルフクラブ会員権、値上がり確実な未公開株の公開価格による取得、就職のあっせん、異性間の情交などがこれに含まれる。
賄賂と社交儀礼  
収賄罪公務員又は仲裁人が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をした場合に成立する。197条1項前段。五年以下の懲役刑。仲裁人とは、公務員以外の者であって、法令に基づき、紛争の仲裁権限を認められた者をいう。(なお、平成15年に、仲裁法が改正され、仲裁人に関する贈収賄罪はそちらに規定されるようになったので、197条、197条の2、197条の3の文言から「又は仲裁人」の文言が削除されることになった)
恐喝により賄賂を取得した場合恐喝罪のほかに収賄罪が成立するかが問題となる。判例は公務員の職務執行の意思の有無で区別する。職務執行の意思がある場合は収賄罪と恐喝罪との観念的競合となる。
受託収賄罪公務員(又は仲裁人)が、その職務に関し、又はその要求若しくは約束をした場合において、請託を受けたときに成立する。197条1項後段。七年以下の懲役刑。請託とは、公務員に対し、職務に関して一定の行為を行うことを依頼することをいう。その依頼する職務行為が不正か正当なものなのかを問わない(最判昭和27・7・22刑集6巻7号927頁)。また、一定の職務行為の依頼であることを要し、一般的に好意ある取扱いをなすことを依頼することでは足りない(最判昭和30・3・17刑集9巻3号477頁)とされているが、他方黙示的になされる請託でもよい(東京昭和37・1・23高刑集15巻2号100頁)。
事前収賄罪公務員(又は仲裁人)になろうとする者が、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をした場合、公務員(又は仲裁人)となったときに成立する。197条2項。五年以下の懲役刑。賄賂と職務行為との対価関係の明確化のために、(1)請託の存在、(2)公務員・仲裁人への就任が成立要件となっている(山口・617頁)と説明される。
第三者供賄罪公務員(又は仲裁人)が、その職務に関し、請託を受けて、第三者に賄賂を供与させ、又はその供与の要求若しくは約束をした場合に成立する。197条の2。五年以下の懲役刑。賄賂を公務員以外の者に供与等させる場合を捕捉することによって、収賄罪による処罰範囲を拡張するための補充規定である。「第三者」とは、贈賄者及び職務行為をなすべき公務員(・仲裁人)以外の者をいうが、賄賂の受供与者が形式的には第三者であっても、実質的には公務員が賄賂を収受したとみることができる場合には、本罪ではなく受託収賄罪が成立することになる。第三者には自然人のほか、法人、法人格なき社団も含まれ(判例)、賄賂性の認識を有している必要もないとされる。
加重収賄罪(1)公務員(又は仲裁人)が収賄罪、受託収賄罪、事前収賄罪、又は第三者供賄罪を犯し、よって不正な行為をし、又は相当な行為をしなかった場合(197条の3第1項)、(2)公務員(又は仲裁人)が、その職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受し、若しくはその要求若しくは約束をし、又は第三者にこれを供与させ、若しくはその供与の要求若しくは約束をした場合(197条の3第2項)、に成立する。(1)(2)ともに1年以上の有期懲役。職務行為と対価関係に立つ賄賂が授受等され、職務行為が賄賂の影響下に置かれたのみならず、不正な行為が現実になされたことによって、職務の公正の侵害が惹起されたことが加重の理由である(山口619頁)。
事後収賄罪公務員(又は仲裁人)であった者が、その在職中に請託を受けて職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をした場合に成立する。197条の3第3項。五年以下の懲役刑。退職後に在職中の職務に関して賄賂の収受等を行った場合の処罰規定である。「公務員(又は仲裁人)であった者」に一般的職務権限を異にする公務員に転職した者が含まれるかどうか、については転職後の賄賂授受の項目を参照。
あっせん収賄罪公務員が請託を受け、他の公務員に職務上不正な行為をさせるように、又は相当の行為をさせないようにあっせんをすること又はしたことの報酬として、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をした場合に成立する。197条の4五年以下の懲役刑。公務員が他の公務員の職務行為についてあっせんを行い、職務上不正な行為を行わせようとする場合を捕捉し処罰する規定。
贈賄罪収賄罪処罰規定(197条から197条の4)に定められた賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束した場合に成立する。三年以下の懲役又は250万円以下の罰金。
賄賂の没収・追徴犯人又は情を知った第三者が収受した賄賂は必要的没収・追徴の対象になる。収受した賄賂の全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴する。197条の5前段・後段。197上の5は19条・19条の2に定められた没収・追徴規定の特則であり、賄賂の収受者に不正な利益を残さないために定められたものである。提供されたが収受されなかった賄賂については犯罪組成物件として19条1項1号にうより没収することができる。「犯人」には収賄罪の正犯及び共犯が含まれる。また。前段の没収の対象となる賄賂は有体物に限られ、有体物ではない、当初より性質上没収不能な賄賂は後段の追徴の対象となる。他に、当初は没収可能な物が、費消、滅失等により事後的に没収不能になった場合も追徴の対象となる。

刑法各論の論点集
論点問題の所在詳解                                                             

≪参考文献≫
大谷實『新版刑法講義各論』(2000、有斐閣)
山口厚『刑法各論』(2003、有斐閣)





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