刑法総論の法律用語の論点集です。
用語 | 定義(その他制度趣旨) | 詳解 |
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罪刑法定主義 | ||
謙仰性 | 刑法の謙仰性、という。 | |
犯罪 | 構成要件に該当する、違法で有責な行為のこと。 | |
行為 | (行為論により定義は異なる) | これを独自の成立要件とするかは議論がある。なお、睡眠中の行為につき、行為性を欠くとして犯罪の成立を否定した判例がある。 |
行為論 | ||
構成要件 | 罪刑法定主義を受けて、犯罪の類型を予め定めたもの。 | その法的性質には議論がある。 |
因果関係 | 行為と結果を結びつけるもの。 | その成立の判断基準をめぐって、条件説と相当因果関係説とが大きく対立する。さらに相当因果関係説の中にも対立がある。 |
条件関係 | 「ある行為がなかったならば、結果が発生しなかった」という関係のこと。 | 「あれなければこれなし」という公式が用いられる。ただ、条件関係=因果関係とすると、結果が帰責される行為の範囲が広がりすぎるとの批判がある。 |
相当因果関係 | 条件関係の存在を基礎としつつも、結果の発生につき異常な要素が介在した場合、これを排除し、相当性を問題する。 | 相当性の判断基準や、判断の基底とする事実の選定につき諸説が対立する。 |
択一的因果関係 | ||
仮定的因果関係 | ||
客観的帰属論 | ||
違法性 | 犯罪の成立要件の一つ。 | 違法性の本質論につき、主観的違法論と客観的違法論とが対立する。さらに客観的違法論の中で行為無価値論と結果無価値論とが対立する。 |
主観的違法論 | ||
客観的違法論 | ||
主観的違法要素 | 違法性の判断において考慮される、行為者の主観的要素のこと。 | ただ、未遂犯においては、故意を違法要素と考えるべきか問題になる。 |
被害者の同意 | 被害者の同意の存在が犯罪の成否、とくに違法性の有無にどの程度影響を与えるか問題になる。 | 被害者自身が法益を処分することは原則として自由であるのなら、被害者の同意が存在する場合、保護法益が不存在ということになる。違法性阻却事由(問題となる行為によっては構成要件該当性阻却事由)になる。これに対し、被害者の同意は、行為の社会的相当性を判断する際の一要素にすぎないと考えれば、かならずしも違法性阻却事由とはいえないことになる。 |
同意の表示 | 被害者の同意が成立するには、その同意が表示されることが必要か、という問題。 | 同意の認識の問題と関連する。 |
同意の認識 | 被害者の同意による違法性阻却を認めるためには、行為者が同意の存在を認識することが必要か、という問題。 | 同意の存在によって法益が不存在になるとすれば、そのことが表示されることは必要でない、と解するのが自然。ただ、主観的には犯罪の故意で行為に臨んだ行為者を不処罰とする点が、特に違法性につき行為者の主観も考慮する学説からは問題とされる。 |
違法性阻却事由 | 構成要件によって推定された違法性を例外的に阻却する事由のこと。正当防衛、緊急避難などがある(通説)。 | 構成要件の違法性推定機能を前提とした用語と思われる。構成要件を形式的に理解する学説では正当化事由とされることが多い。 |
正当防衛 | 違法性阻却事由の一つ。 | 緊急避難と違い、正当防衛には補充性は要求されない。 |
防衛の意思 | ||
過剰防衛 | ||
誤想防衛 | ||
誤想過剰防衛 | ||
急迫不正の侵害 | ||
急迫性 | ||
積極的加害意思 | ||
対物防衛 | 動物など物そのものからの侵害に対する防衛行為。または行為者の侵害行為を構成する物 | 「不正の侵害」の解釈が問題になる。なお、違法性の判断につき行為者の主観を考慮する学説からは、規範は人に向けられるものであり、動物など物に対しては向けられていないから、正当防衛を否定し、緊急避難の成立にとどめる、という結論になりやすい。 |
緊急避難 | ||
緊急避難の法的性質 | 違法性阻却説(通説)と責任阻却説、二分説が対立する。 | 緊急避難における侵害者と被侵害者との関係が正対正の関係に立つことをめぐって、学説が対立している。第三者の法益のための緊急避難も認められていること等から、違法性阻却説が通説。 |
カルネアデスの板 | 船舶遭難時の避難に際し、二人の人間が一枚の板を奪い合ったという、講学上の事例 | 生命対生命の法益が対立している。違法性阻却説を前提にしつつも、この場合は責任阻却事由と解する説も存在する(生命の法益としての重要性に鑑みて)。 |
補充性 | ||
過剰避難 | ||
自招避難 | 行為者の故意または過失により現在の危難を生じさせた上で、それに対する避難行為をおこなうこと。 | |
責任 | 犯罪の成立要件の一つ。 | |
責任能力 | (1)是否弁別能力(2)行動制御能力とに分けられる。 | |
故意 | ||
過失 | ||
期待可能性 | ||
客体の錯誤 | ||
方法の錯誤 | ||
具体的符合説 | ||
法定的符合説 | ||
故意の個数 | ||
抽象的符号説 | ||
過失 | ||
旧過失論 | ||
新過失論 | ||
危惧感説 | ||
管理過失 | ||
期待可能性 | ||
未遂犯 | ||
障害未遂 | ||
中止未遂 | ||
実行行為 | ||
危険犯 | ||
中止犯 | ||
着手中止 | ||
実行中止 | ||
任意性 | 客観説と主観説とが対立。 | |
不能犯 | ||
共犯 | ||
共犯の本質 | 共犯同士が共同するものは何か、という論点。 | 犯罪共同説と行為共同説とが対立する。異なる構成要件間の共同正犯の成立や、片面的共犯の成立をめぐる問題に関連する。 |
共犯の処罰根拠 | 責任説、惹起(じゃっき)説が対立。 | |
共同正犯 | ||
共謀共同正犯 | ||
片面的共犯 | 片面的共同正犯、片面的教唆犯、片面的従犯がある。 | |
承継的共犯 | ||
間接正犯 | ||
教唆犯 | ||
未遂の教唆 | ||
従犯 | ||
罪数論 | 行為者が複数の罪を犯した場合における法的処理をめぐる理論のこと。 | 犯罪成立要件論あるいは罰条適用論ともいう。 |
罪数の基準 | (1)行為を基準とする見解(2)行為者の意思を基準とする見解(3)法益侵害を基準とする見解(4)構成要件的評価の回数を基準とする見解などがある。 | |
単純一罪 | ||
法条競合 | 1個の法益侵害事実に対して、数個の刑罰法規が適用可能であり、数個の犯罪が成立するように見えるにもかかわらす、それらの罰条相互の関係から、1つの罰条のみの適用が可能であり、1罪しか成立しないこと。 | 法条競合が発生する関係としては、特別関係、補充関係、択一関係、(吸収関係)などがあげられている。 |
包括一罪 | 複数の法益侵害事実が存在するが、1つの罰条の適用によりそれを包括的に評価しうる場合のこと。 | 法益侵害惹起の一体性が認められる場合や行為の一体性が認められる場合がこれにあたる。 |
吸収一罪 | 包括一罪の一類型。 | 随伴行為、共罰的事前行為、共罰的事後行為(不可罰的事後行為)等がある。 |
混合的包括一罪 | ||
包括一罪(狭義) | 同じ数個の犯罪行為を包括して一罪とする場合のこと。 | 1個の行為により数個の同じ法益侵害を惹起した場合や、下記の接続犯や集合犯の場合がこれにあたる。 |
接続犯 | 数個の接続した行為により、数個の同じ法益侵害を惹起すること。 | |
連続犯 | 旧55条。 | |
集合犯 | 数個の同じ行為が行われることが構成要件上想定されている犯罪のこと。 | 常習犯、営業犯など |
科刑上一罪 | 観念的競合、牽連犯 | |
観念的競合 | 科刑上一罪の一類型。1個の行為で2個以上の罪名に触れた場合。 | 54条1項前段。複数の行為(意思決定)により複数の法益侵害が惹起された場合よりも責任が減少するといえるから、というのがその根拠。なお、1個の行為の判断基準は、「法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会見解上一個のものと評価を受ける場合」とされている(最大判昭和49年5月29日刑集28巻4号114頁)。 |
牽連犯 | 科刑上一罪の一類型。複数個ある行為が目的・手段または原因・結果の関係にある場合。 | 54条1項後段。左のような関係にある行為は1個の意思決定によるものと準じて扱ってよいから、というのがその根拠。 |
不作為犯の罪数 | 不作為犯において、どのような場合に観念的競合が成立するかに関連して問題になる。 | |
教唆犯・幇助犯の罪数 | 教唆・幇助罪の個数・・正犯により実行された犯罪の個数 教唆・幇助行為が一個の行為の場合・・数個の教唆・幇助罪は観念的競合 数個の教唆・幇助行為により正犯の1個の犯罪を教唆・幇助した場合・・教唆・幇助の包括一罪 | |
かすがい現象 | ||
併合罪 | 確定犯罪を経ていない二個以上の罪のこと。 | |
単純数罪 | ||
罰則の施行 | 罰則は、それを規定する法令の施行日以降効力を有する。 | |
刑の廃止 | 罰則は、犯罪時に存在すれば足りるのではなく、裁判時にも存在しなければならない。 | |
限時法の理論 | 時限付法令については、法令失効後も罰則の効力は存続すると解する理論。 | |
刑の変更 | 法定刑の変更などがその例。労役場留置の期間の変更もこれにあたる。しかし、刑の執行猶予の条件の変更は刑の変更にはあたらない。 | 6条。犯罪後に複数回の刑の変更があった場合には、最も軽い刑による。 |
国内犯 | 日本国内において行った犯罪のこと。 | 日本国外にある日本船舶又は日本航空機内において罪が犯された場合についても、国内犯として扱われる(1条2項)。 |
国外犯 | 犯罪地が国外の犯罪のこと。 | 特別の規定がない限り、わが国の刑法の適用は認められない。 |
属地主義 | 刑法の場所的適用範囲に関する考え方の一つ。 | 属地主義の原則ともいう。構成要件該当事実の一部でも日本国内にあればよい。よって、共謀や教唆行為が国内でおこなわれた結果、犯罪行為が国外でおこなわれたというケースでも国内犯である。 |
属人主義 | 刑法の場所的適用範囲に関する考え方の一つ。 | 3条参照。 |
保護主義 | 刑法の場所的適用範囲に関する考え方の一つ。 | 2条、4条。 |
世界主義 | 刑法の場所的適用範囲に関する考え方の一つ。 | 4条の2。 |
刑罰論 | ||
主刑 | ←→付加刑(没収)。 | |
生命刑 | 死刑。絞首という方法で行われる。憲法36条の残虐な刑罰にあたらないとするのが判例である。 | |
自由刑 | 懲役、禁錮、拘留。 | |
仮出獄 | ||
財産刑 | 罰金、科料。 | |
没収 | 追徴。 | |
犯罪組成物件 | ||
犯罪供用物件 | ||
犯罪生成物件 | ||
犯罪取得物件 | ||
犯罪報酬物件 | ||
対価物件 | ||
執行猶予 | ||
保護観察 | ||
法定刑 | ||
処断刑 | 法定刑から処断刑を定める場合の手順については、72条参照。 | |
宣告刑 | ||
再犯加重 | 57条。 |
≪参考文献≫
大谷實『新版刑法講義総論』(2000、有斐閣)
山口厚『刑法総論』(2001、有斐閣)